太陽光エネルギー変換装置としての植物

  植物を集光装置として太陽エネルギーを利用し生産された原材料を非破壊的に生活に役立てる、それがGreen Solar Collectorの目指すところです。

 果実は、光合成産物の貯蔵庫です。植物本体の光合成能力は何年も維持したまま、その生産物だけを収穫することができます。

 寄生植物は、他の生物と細胞レベルで接続を作ることのできる、全生物界でも珍しい特性を持った植物です。この寄生植物の機能を利用すれば、光合成産物を長距離輸送するパイプライン構築の可能性が拡がります。

 吸汁性昆虫は、植物の光合成産物運搬路である師管を探り当てて、植物を殺すことなく光合成産物を自分たちの繁殖に利用しています。

 

 こうした生物達の機能を模倣し、作物を伐り倒して環境破壊することなく持続的に太陽エネルギー利用できる技術基盤を作りたいと思っています。

 

Green Solar Collectorモデル生物たち。左上:トマト、右上:オロバンキ、左下:ネナシカズラ、右下:アブラムシ

  自然界は広い。様々な生物がいます。その中で我々は分布の縁にいる変わりもの的な生物のレアな力を活用しようと研究を進めています。

 分布の縁1つめは寄生植物です。寄生植物は宿主植物と細胞レベルで接続を作れるという、生物界でも稀有な能力を持っています。この力を、個々の生物をつないでコンビナトリアルに代謝能力や情報処理能力使っていくことに応用することを試みています。

 分布の縁2つめは吸汁昆虫です。吸汁昆虫の代表格アブラムシは、口針で宿主植物の内奥にある師管を探り当てて栄養分を得ています。宿主植物をそれほど痛めることなしに。このような植物と共生していく力を人間も持てるように、口針メカニズムの模倣を試みています。

 分布の縁にいるものの力は、世の中が不安定になった時にこそ真価を発揮します。機能ゲノム科学LabではWet(実験)とDry(バイオインフォマティクス)を自在に行き来できる環境の中で、新たな領域に踏み出す最初の一匹になれるような生物科学を目指しています。

バイオインフォマティクスは OGATA LAB のページへ

 


細胞をつなげる

植物は個体と個体の間で物理的なつながりを作ることができます。この性質を利用して、植物がつくる原材料物質や植物が伝える情報を遠距離輸送し、植物を切り倒すことなく取り出せないものでしょうか。

 別々の個体同志がつながりを作る例は、寄生植物・共生微生物の寄生・共生過程に見ることができます。 私たちの研究室では根や茎に寄生する植物を用いて、個体同志の通導組織の接続がいかにして作られるのかを明らかにし、その仕組みを植物による情報処理や代謝機能改変に応用していきたいと考えています。

植物から持続的に資源回収することをめざすGreen Pipeline。

 

ネナシカズラを用いた細胞接続機構の研究

日本在来のネナシカズラCuscuta japonicaは茎に寄生する寄生植物です。茎に巻き付いてから寄生根を宿主に侵入させて、宿主との維管束連結構造を作ると考えられています。私たちは、寄生植物の能力を活用し、維管束パイプラインを作るための技術開発をしたいと考えています。

ネナシカズラ寄生段階。(A)発芽、(B)巻き付き、(C)茎頂の伸長。
ネナシカズラ寄生段階。(A)発芽、(B)巻き付き、(C)茎頂の伸長。

 ネナシカズラはこれまで遺伝子配列やゲノム配列が読まれた前例がありませんでした。そこで私たちはネナシカズラがダイズに寄生した部位からRNAを抽出し、高速シークエンサーIllumina HiSeq2000でリードを収集し、遺伝子配列を組み立てて、発現量を定量的に評価するトランスクリプトーム解析という作業を行いました。

 その結果、細胞壁修飾、転写制御、光合成、転移酵素、加水分解酵素、リン酸化酵素等のカテゴリーに属する遺伝子が、寄生部位において寄生側と宿主側で異なったタイミングで発現量の増減を示すことがわかってきました。これらのなかから、

・維管束の形成に関わる遺伝子群

・細胞壁の修飾に関わる遺伝子群

・表皮で発現している遺伝子群

に焦点を当てて寄生への関わりを調べていく予定です。

24時間間隔でみたネナシカズラ寄生の進行具合。96hあたりから先端の伸長が再開している。
24時間間隔でみたネナシカズラ寄生の進行具合。96hあたりから先端の伸長が再開している。
ネナシカズラ(Cj, 寄生)とダイズ(Gm, 宿主)で同じような遺伝子が違う寄生段階で発現している。
ネナシカズラ(Cj, 寄生)とダイズ(Gm, 宿主)で同じような遺伝子が違う寄生段階で発現している。


根寄生植物オロバンキを用いた通導組織接続機構の研究

 寄生植物は、宿主植物の維管束に自身の維管束を接続し、宿主から転流同化産物を吸収します。この接続過程には(i)寄生植物の発芽、(ii)宿主植物への付着と寄生根伸長、(iii)寄生根による宿主維管束細胞の認識、(iv)細胞レベルでの接続の形成、といったプロセスに分けられます。このうち発芽と寄生根発根に関しては、宿主植物側から出される刺激物質であるストリゴラクトンやキノン類が同定されています。しかしながら、宿主細胞との細胞接続に関与する宿主側・寄生側の遺伝子は共に明らかになっていません。

 私たちは根に寄生するオロバンキOrobanche aegyptiaca をもちいて、通導組織形成に関与する遺伝子の探索を行うことにしました。O. aegyptiaca はトマトに寄生する植物の中で、唯一網羅的ユニジーン解析が行われているので、これを参照に発現遺伝子解析が実施できる環境をつくることが可能であると考えました。寄生関連遺伝子同定のために

①寄生成立過程での発現遺伝子のRNA-seq解析(トマト、オロバンキ両者の遺伝子)

②寄生抵抗性を示すようなマイクロトムEMS変異系統のスクリーニング 

といった二つのアプローチをとって行くつもりです。

 まず、①の方法で、オロバンキがトマト根に寄生を成立させる時のいくつかの段階ごとに、オロバンキとトマト両者の寄生部位での遺伝子発現を調べてみました。 

 

 

オロバンキの生活環

 

マイクロトムの根に寄生したオロバンキの成長の様子。(A)根に付着、(B)小塊茎ができはじめる、(C)小塊茎が角状になる、(D)小塊茎がさらに成長、(E)シュートが立ち上がったところ。

 

まず、オロバンキがトマト根に寄生を成立させる時のいくつかの段階ごとに、オロバンキとトマト両者の寄生部位での遺伝子発現をIllumina HiSeq2000によるRNA-Seqで調べてみました。小塊茎が形成され始めた段階で一過的に発現が上昇している遺伝子群を拾ってみると、オロバンキ側ではリボソーム関係の遺伝子が、トマト側ではホルモン合成と転写に関わる遺伝子が、それぞれ発現上昇していました。今後、これらの遺伝子の寄生成立への関与を調べていきます。


 興味深いことに、オロバンキは液体培養すると宿主の存在とは無関係に小塊茎によく似た組織を形成します。これをトマト根につけてやると、やはり寄生を起こすことができるのです。この性質を利用して、寄生可能な組織はどのように分化するのかを調べたり、大規模な変異体選抜を行なっていきます。

オロバンキの液体培養
オロバンキの液体培養

「SOL」とはSolanaceaeつまりナス科植物のことです。我々は植物ゲノムの中でもナス科作物のゲノムに力を注いでいます。ナス科の中にはナス・トマト・ジャガイモ・トウガラシ・ピーマン・タバコ・エトセトラ、、、と重要な野菜がたくさん含まれています。これらは12本の染色体という構成と、主要な遺伝子の並び方は非常によく保存されているにもかかわらず、上に挙げた野菜たちのように似ても似つかぬ姿かたちを示します。だからナス科ゲノムの多様性を、その姿かたちの多様性と結びつけることができれば、ゲノム情報をもとに植物に新たな形質を付与することが可能になると考えています。

 トマトはナス科のモデル植物と見なされていますが、当研究室の青木はトマトの参照ゲノムHeinz1706ゲノムの解読と解析の国際プロジェクトに携わり、Solanum lycopersicumSolanum pimpinnellifoliumの比較ゲノム解析や完全長cDNAの解析を行ってきました。

Micro-Tom

 参照ゲノムが解読されたトマトでは、主要なS. lycopersicum品種や近縁野生種のゲノムシークエンシングが急速に進みつつあります。私たちの研究室でも、研究用の丈の小さなモデルトマト品種”マイクロトム”のゲノム解析を進めています。

 マイクロトムは観賞用に開発された品種で、20cm程度の高さにしか育たないのに、蛍光灯の照明のもとでキチンと実を付けることができます。この性質自体も面白いのですが、マイクロトムはその小ささと育てやすさ故に様々な変異系統や形質転換系統を作製するための基盤品種として大いに活用されてもいます。マイクロトムのゲノムを明らかにすることは、こうした研究用系統を利用した研究を加速するというメリットもあるのです。

 さて実際にマイクロトムのゲノムを読んでHeinz1706のゲノム配列と比較してみると、全体で120万か所にのぼる一塩基置換が存在することがわかりました。その中の1つは、マイクロトムに「小さい」という性質をもたらしているdwarfという変異の原因となっていることも確認できました。そのほかマイクロトムの性質の決定に影響している遺伝子に、熟するときに果実全体が一様に赤くなるuniform ripening、芯止まり性をもたらすself-pruning、といった遺伝子についても一様赤熟型、芯止まり型のDNA配列を持っていることがわかりました。

 マイクロトムは果皮に含まれるナリンゲニンカルコンという成分や、抗酸化性を持つフラボノイド、それから種を包むゼリーに特徴的なトリテルペノイドが含まれるなど、有用成分含量も比較的高いものがあることがわかっています。マイクロトムゲノム配列は、こうした諸性質をもたらすゲノム領域を明らかにしていくために欠かせない出発点となります。

マイクロトムはシロイヌナズナを育てるスペースがあれば育てられる手軽なトマトです。
マイクロトムはシロイヌナズナを育てるスペースがあれば育てられる手軽なトマトです。
トマトのとある染色体上での一塩基置換の密度分布
トマトのとある染色体上での一塩基置換の密度分布

光が弱くとも実がつく省エネ型トマト

 マイクロトムの面白い性質の一つとして「通常の蛍光灯による照明によっても実を着けることができる」ということがあります。通常のトマトは蛍光灯による照明よりも十倍以上の照度を持つ自然光のもとでないと実を着けられません。ここのところ普及しつつある室内栽培や植物工場での生育環境を考えると、これは自然光ほどの明るさをもつ照明のためにエネルギーを投入しなければならないことを意味します。

 そこで私たちは、マイクロトムの「低照度で着果することができる」という性質をもっと強めて、照明に投入されるエネルギーを減らすことができないかと考えています。そのために、通常マイクロトムが着果することのできる照明よりも更に暗い照明のもとで着果できるマイクロトム突然変異系統を探すことに着手しています。このようなマイクロトムが見つかったならば、その原因となっている遺伝子を、マイクロトムゲノム配列情報と照らし合わせることによって同定していく予定です。

 このようなトマトは室内栽培だけでなく、天候不順により照明が不十分なことがあっても、きっと収穫量が維持でき生産安定につながるものになると考えています。 

 

 


 

アブラムシを用いた師管探索機構の研究

 植物の転流路を探り当てる仕組みは、自然界に他にもあります。それは、アブラムシやウンカやカメムシなどの昆虫の口針です。これらの昆虫は口針を植物の茎や葉に外側から刺して、茎や葉の内部にある師管細胞に正確に口針を差し込みます。この際に、口針は一直線に師管細胞に向かうわけではなく、間違った方向に差し込んだらそれを修正する、という動作を繰り返して、最終的に師管細胞に至るようなのです。

 私たちは、外側からチューブを差し込んで正確に師管細胞を探り当てる、昆虫たちのワザを模倣できないかと考えています。そのために

①口針を差し込む様子をリアルタイムで撮影する。

②口針の内側にどのようなタンパク質があるかを同定する。

③口針を思うような方向へ曲げながら刺すための仕掛けを開発する。

といった点に関する研究を進めています。


情報の科学を研究したいと思う。 バイオインフォマティクスの技術も用いて植物がどんなふうに情報を生成し発信しているのかを知りたいと考えています。

・どのように情報を抽出しているか?

・植物はいかにして情報の符号化をおこなうか?

マイクロトム果実発生過程における転写開始点の変化

マイクロトム遺伝子の完全長cDNA網羅的解析過程で、一つの遺伝子でも5’末端位置が一定ではないことが見出されていました。これは、遺伝子の転写開始点がcDNAライブラリーを作製した組織によって異なる可能性を示唆しています。

 そこで、マイクロトム果実のimmature green, mature green, redの3段階を選び、これらの組織での転写開始点(Transcription Start Site, TSS)を DeepCAGE法で調べました。 すると実際にマイクロトム果実の発生段階に応じて遺伝子の転写開始点が変わっている場合があること、また余計に長く転写が開始されている部分に特異的にマッピングされる短鎖RNAがあることがわかってきました。これは転写開始点の異なる転写産物が短鎖RNAの生成を誘発し、その結果その遺伝子の発現抑制につながる可能性を示唆していると考えられます。

 さらに果肉・果皮・ゼリー部分などの組織でも解析を実施し、TSSのプロフィールを明らかにして行く予定です。

DeepCAGE法による転写開始点決定の原理
DeepCAGE法による転写開始点決定の原理

切れ残りイントロンをふくんだ転写産物の機能

マイクロトム遺伝子の完全長cDNA網羅的解析過程で、全遺伝子の約6%のものは「切れ残りイントロン」をもったスプライシングバリアント(Retained Intron containing RNA, RI-RNA)を持つことが明らかになりました。RI-RNAは、多くの場合切れ残ったイントロン内にストップコドンを持つので、いわゆる全長型タンパク質とは異なったタンパク質を生成すると考えられています。

 切れ残りイントロンを含んだ転写産物の植物細胞内での機能を調べるため、

①Translatome(単離リボソームに結合しているRNAのプロフィール)

②Small RNA

にRI-RNAのイントロン切れ残り部分に相当する配列が見らるかどうかを調査し、RI-RNAがタンパク合成レベルで機能するのか、それともmRNA蓄積レベルでの調節に関与するのかを明らかにしたいと考えています。

マイクロトム完全長cDNAから検出されたオルタナティブスプライシング転写産物の頻度。Retained Intronが55%を占めている。
マイクロトム完全長cDNAから検出されたオルタナティブスプライシング転写産物の頻度。Retained Intronが55%を占めている。