植物の集光力と光利用効率のアップをめざして

 植物は地球上で唯一太陽の光エネルギーを化学的なエネルギーに変換できる生物です。この植物のエネルギー変換能力を私たちの生活に役立てるために、ゲノム情報や遺伝子科学を活用することが本グループの目標です。

 太陽エネルギー変換能力の「伸ばししろ」として私たちは2つのポイントを考えています。ひとつは、いかにして集光力を高めるか。もう一つは、いかにして光利用効率を高めるか、です。

  植物達の機能を利用し、持続的に太陽エネルギー利用できる技術基盤を作りたいと思っています。


集光力アップを目指してー寄生植物の機能

 集光力を高めるには、単純に光を集める「レンズに相当するもの」のサイズを大きくする方法が思い浮かびます。ところが方法はもう一つあって、小さな「レンズに相当するもの」をたくさん集めて一つの大きなレンズのように使うことでも実現可能です。集光力を高めるためたくさんの植物をまとめて利用するには、植物をつなぐ方法がいります。「寄生植物」といって、他の植物に寄生して育つ植物は、この他者とつながる機能を持っています。つながる機能がいかにして発現するのかを中心に研究しています。

(1)茎寄生植物ネナシカズラ

ネナシカズラ寄生段階。(A)発芽、(B)巻き付き、(C)茎頂の伸長。
ネナシカズラ寄生段階。(A)発芽、(B)巻き付き、(C)茎頂の伸長。

①ネナシカズラトランスクリプトーム

 ネナシカズラはこれまで遺伝子配列やゲノム配列が読まれた前例がありませんでした。そこで私たちはネナシカズラがダイズに寄生した部位からRNAを抽出し、高速シークエンサーIllumina HiSeq2000でリードを収集し、遺伝子配列を組み立てて、発現量を定量的に評価するトランスクリプトーム解析という作業を行いました。

 その結果、細胞壁修飾、転写制御、光合成、転移酵素、加水分解酵素、リン酸化酵素等のカテゴリーに属する遺伝子が、寄生部位において寄生側と宿主側で異なったタイミングで発現量の増減を示すことがわかってきました。これらのなかから、

・維管束の形成に関わる遺伝子群

・細胞壁の修飾に関わる遺伝子群

・表皮で発現している遺伝子群

等に焦点を当てて寄生への関わりを調べています。

ネナシカズラ(Cj, 寄生)とダイズ(Gm, 宿主)で同じような遺伝子が違う寄生段階で発現している。

②吸器先端におけるアラビノガラクタンタンパク質(AGP)遺伝子の選択的発現

 ネナシカズラが寄生する相手(宿主)の茎に挿し入れていく根のような器官を「吸器」と呼びます。吸器の先端には「探索糸」と言われる細胞があり、宿主の維管束を探索します。私たちは、この探索糸細胞の細胞壁にアラビノガラクタンタンパク質(AGP)という、細胞壁と細胞膜をつないでいるタンパク質が多く蓄積していることを見出しました。ネナシカズラに60個以上あるAGP遺伝子のうち5遺伝子が選択的に探索糸細胞で発現していました。これらのAGP遺伝子は、宿主細胞の探知や探索糸細胞の伸長に役割を果たしていると考えられます。

ネナシカズラの寄生部位断面図。宿主と付着する「付着器」、宿主内に挿入される「吸器」、吸器の一番先端の細胞「探索糸細胞」、が形成される。

吸器の発達と探索糸伸長に伴ってAGPが探索糸細胞細胞壁に蓄積していく。βGlcYはヤリブ試薬というAGPを特異的に染色する薬剤。LM6とLM2はAGPの糖鎖を認識する抗体。48時間目の吸器原基(pha)細胞壁に比べて、72時間目の探索糸細胞(*)細胞壁にはAGP蓄積が顕著である。

探索糸細胞に選択的に発現するAGP遺伝子(CcFLA17CcFLA5)。

③吸器内での通導細胞の分化

 吸器が宿主植物の維管束に到達すると、吸器内で伸長していた細胞の一部が道管と篩管に分化します。この分化過程を調べてみると、普通の双子葉植物の根や茎で道管篩管が分化するのと同様な遺伝子ネットワークが働いていることがわかってきました。吸器での細胞分化には興味深い点が二つあります。一つは、道管や篩管の基となる「維管束幹細胞」が吸器の中央部付近に一過的に出現している点。伸長する吸器柔細胞からリプログラミングされると思われます。二つ目は、道管に当たった探索糸細胞は道管に、篩管に当たったのは篩管になる点です。これらの背後には寄生植物独特の細胞分化制御機構があるのではないかと考えられます。

維管束幹細胞特異的に発現するネナシカズラ遺伝子CjWOX4は、伸長中(0時間から48時間)の吸器ではほとんど発現していないが、吸器内部に通導細胞が現れる直前(72-96時間)に一過的に発現を高める。吸器の中央部付近の特定の細胞で発現している。

吸器内での通導細胞分化に関わる遺伝子ネットワーク。

(2)根寄生植物フェリパンキ

根寄生植物Phelipanche aegyptiaca。地下で発芽すると、宿主の根に付着して寄生します。コンペイトウのような小塊茎を作って肥大、その一部から花茎ができ、地上に伸びて花を咲かせて種子繁殖します。

①フェリパンキの吸器内部にできる篩管様細胞

 根寄生植物Phelipanche aegyptiacaの吸器内部にも道管と篩管ができるのですが、私たちは篩管に相当する細胞の成り立ちが、通常の篩管の細胞とは大きく異なることを見出しました。宿主の篩管にGFPを流し、寄生したフェリパンキ吸器のどの細胞をGFPが輸送されて行くかトラッキングしたところ、GFPは特定の細胞列を通って行くのですが、それらの細胞は細胞核を保持していました。普通の篩管管状要素は物資輸送のために細胞核やリボソームを失くすはずなのですが、吸器ではそうではありませんでした。

宿主篩管でGFPを発現させ、GFPが吸器のどの細胞を輸送されるかを解析(左)。GFPは細胞内しか通らない。すると吸器内でGFPが通る細胞は細胞核を持つ細胞であることが明らかとなった(右、青色が細胞核、緑色がGFP)。

 なぜ吸器のGFP通導細胞は核を持つのか?篩管要素の細胞核分解に関わる遺伝子PaNAC45PaNEN1PaNEN4はいずれも吸器で発現していました。いっぽう、NAC-NENとは別な経路で篩部分化を制御するPaOPSPaBIN2PaBES1の中で、PaBES1の発現が低下していることがわかりました。このOPS-BES1経路の働きが通常の維管束分化過程に比べて低いことが、細胞核残存と関りがあると考えています。

②フェリパンキに抵抗性を持つトマト系統の探索

 フェリパンキは地中海沿岸諸国、南米、オーストラリアなどにおいて、トマトの生産に大きな被害を与えています。フェリパンキを寄生させない、あるいは寄生されても正常に生育できるトマト系統があれば、この被害を軽減できます。

 フェリパンキの地中での発芽を阻害するようなトマト系統は既に知られていますので、私たちはフェリパンキが発芽して根に付着しても、そこから先の寄生過程を起こさせないようなトマト系統が無いかどうか、マイクロトムというトマト品種のEMS突然変異誘発系統を用いてスクリーニングを行なっています。


光利用効率アップを目指してー低光量耐性着果性トマト

 光利用効率を高める、ということは少ない光の下でも正常に生育する、またはベラボーに強い光の下でも捨てるエネルギーをなるべく少なくする、という二つのことを意味しています。今のところ私たちは、少ない光の下でも正常に生育する植物を見つけ、その性質の原因となっている遺伝子を利用することが考えられています。

①光が少なくとも実をつけるトマト、その原因遺伝子探索

 トマトは実をつけるために多くの光を要求する作物です。よって夏の天候不順に生産は大きく影響されますし、また屋内植物工場のように人工照明のみで栽培を行なうようなケースに適した作物とは言えません。

 私たちは蛍光灯照明のように通常のトマトにとっては不十分な光量の下でも正常に実るトマト系統を見出し、その性質の原因となっている遺伝子の同定を進めています。同定された遺伝子をゲノム編集等を用いて味の良いトマト品種に導入することで光利用効率の良い系統を作出したいと考えています。

低光量耐性着果性品種と低光量感受性品種を交配し、低光量耐性の様々な程度が現れるF2世代以降をもちいて、遺伝子型と低光量耐性着果表現型の相関解析を行なって、原因遺伝子を探索する。

ゲノムワイド相関解析(GWAS)の結果。縦軸の値が高いゲノム領域が、低光量耐性との相関が高い。



細胞核エンジニアリング

 細胞核はゲノムDNAの収納庫なのですが、これまでDNAが「どのように」核内に収納されているのか問題にされてきませんでした。しかし近年酵母や動植物の様々な遺伝子が、発現活性の高低と細胞核内配置に相関を持っていることがわかってきました。

 核内でのDNAの配置を制御することで、新たな遺伝情報発現制御法が可能となりつつあります。

 私たちは、ゲノムDNAの任意の領域を、標的とする核膜や核膜孔や核小体の近傍に配置したり、またはゲノムの任意の領域同士の相対位置を変えるための技術開発を行なっています。